はじめにこちらをお読みください

女性の権利を守る

私たちは、ふだんも災害時もすべての女性が十分な情報と温かい支援を受ける権利があると考え、すべての女性や子育てに関わる方、そして乳幼児を支援している団体です。

子育て中の女性は、価値観の押しつけに苦しみ、自分らしさを否定された言動の数々に傷ついてきた方も少なくありません。乳幼児の栄養に関する場面でもそれは同じです。

女性たちが十分な情報を得られることで、自分と家族にふさわしい乳児栄養を自ら選ぶことができます。女性たちが自ら選んだ選択を私たちは尊重しています。女性の選択に寄り添う事が女性の権利を守ることにつながると考えています。

授乳や母乳の話も出てきますが、決して母乳で育てたいと思う女性への支援だけを目的としているわけではありません。

国際的なガイドライン

私たちは、災害時の乳幼児の栄養支援については、国内の事情も考慮に入れた上で、国際的なガイドラインに沿った情報提供をしています(※)。

多くの災害時の支援の経験をもとに書かれた国際的なガイドラインは、女性たちへ伝えられるべき十分な情報の発信の留意点と、支援を受ける権利について詳細に記載されています。

赤ちゃんは、母乳や乳児用ミルクがなければ生きていけないため、災害に弱い存在です。災害の規模が大きくなるほど、物流が途絶えやすく物資が入手しにくくなります。また、いつものような医療が受けられるとは限らない災害時に、母乳を飲んでいない赤ちゃんの感染症のリスクが高まることが国際的にも心配されています(1,2)。

限られた資源を必要なところへ

物流が途絶える心配がある災害時でも、乳児用ミルクが必要な赤ちゃんには、安心して飲ませるための資源が継続的に入手できる必要があります。そのために、そのような赤ちゃんの存在を把握し、集中的な支援に繋げていくことがとても重要です。同時に、ふだんから母乳をあげていて飲ませ続けたいと思っているお母さんに対しては、災害時も母乳を安心してあげ続けられる支援が重要となります。

母乳をあげるお母さんが増えれば、その分、乳児用ミルクが必要な赤ちゃんにミルクと調乳に必要な物資(水・容器・燃料など)も行き渡らせることができます。母乳に含まれる免疫物質により赤ちゃんの感染症の拡大を防ぐことができれば、乳児用ミルクで育っている赤ちゃんの健康リスクも大きく減らすことができます。

どんな人にも支援が必要

とはいえ、災害が起こった時に、お母さんが自信をもって母乳をあげ続けられるかどうかは、周囲からの情報や支援の有無によってかなり左右されます。

また、乳児用ミルクを必要とする赤ちゃんの数と状況を把握し、衛生状態の悪い中で、安全に乳児用ミルクを飲ませる方法を伝えることも非常に大切です。

このような時、災害時の乳幼児の栄養支援についての国際ガイドラインは、過去に起こった災害での事実をもとに、常に情報を更新しており、すべての親子を守るために有益な情報が書かれていて参考になります。

以下に、災害時の乳幼児栄養に関する支援情報をまとめました。改変しない限り自由にお使いください。

災害時の乳幼児栄養の支援情報

 

乳児栄養は権利の問題

お母さんたちの声に寄り添って耳を傾けることは、ふだんも災害時も重要です。

できれば母乳で育てたかったのに願うようにできなかったという人もいます。支援者側に支援する力(知識・スキル・支援姿勢)が不足していたということもあるでしょう。十分な育児休業や復帰した職場で搾乳できる場がなかったということもあるでしょう。医学的な理由があって乳児用ミルクを使ったということもあるでしょう。それにもかかわらず、わが子のために最善を尽くそうとしてきた母親が自らを責めたり落ち込んだりする姿に胸を痛めます。

また、災害時に母乳を強制され辛かったという声が、過去の災害でも報告されています(3)。他方、母乳で育てたいと思っていたのに、乳児用ミルクを勧められプレッシャーを感じたという不適切な支援(4)や、授乳室がない状態での授乳の強要や、授乳を覗かれ、不快や身の危険を感じたため(5)、授乳回数が減ってしまったという支援不足も報告されています。

乳児栄養の選択は、女性の権利です。母親に課される義務として周囲の人が押し付けたり追い詰めたりするべきではありません。また、どちらかを選ぶことで責められるべきではないし、どちらが道徳的に崇高であるかというようなものではありません。私たちは、母親とはこうあるべきという情報によって、女性が苦しめられていることに心を痛めています。また、母乳をあげている女性と乳児用ミルクをあげている女性がまるで対立しているかのような構図で描かれるべきではないと考えます。そして、赤ちゃんを持つ女性を支援する人は皆、国際的なガイドラインや、それに基づく内閣府男女共同参画のガイドライン(6)に沿って、本人の意思を尊重し、寄り添う支援をする必要があると考えています。

すべての女性・子育てにかかわる方と乳幼児の、命・健康・権利が守られるために、この情報が役立てば幸いです。

※WHO「母乳代用品のマーケティングに関する国際規準」とその後の世界保健総会決議、IFE コアグループ(UNICEF、WHO、UNHCR、WFPなどの国連機関と緊急救援活動に取り組む NGOや専門家による国際ネットワーク)策定の「災害時における乳幼児の栄養~災害救援スタッフと管理者のための活動の手引き」のこと

母と子の育児支援ネットワークは、独立した団体として運営のすべてを非営利でおこなっており、政治、宗教、企業などとは中立的立場を取っています。

 

  1. Emergency Nutrition Network. Diarrhoea risk associated with not breastfeeding in Botswana. Field Exchange 29. https://www.ennonline.net/fex/29/diarrhoearisk  
  2. Karleen D. Gribble, Marie McGrath, Ali MacLaine, Lida Lhotska. (2011) Supporting breastfeeding in emergencies: protecting women’s reproductive rights and maternal and infant health. Disasters. 35(4): 720-738.
  3. 熊本市 男女共同参画センター はあもにい(2018) 熊本地震を経験した「育児中の女性」へのアンケート報告集.
  4. ジョイセフ(2012) 東日本大震災被災地支援事業評価報告書 ~ジェンダー視点から~. http://www.joicfp.or.jp/sp/PDF/gap_report_jp2012.pdf
  5. 東日本大震災女性支援ネットワーク(2015) 東日本大震災 「災害・復興時における女性と子どもへの暴力」 に関する調査報告書. 2015年1月改定ウェブ版「聞取り集:40人の女性たちが語る東日本大震災」 イコールネット仙台.
  6. 内閣府 男女共同参画局(2020) 災害対応力を強化する女性の視点 男女共同参画からの防災・復興ガイドライン.